塗り替えられない

 

彼の姿を見つけた瞬間、すぐに呼ぶべき名前は思い浮かんだ。
が、それを口にするにはまだ抵抗があって、そうして僅かに口を開けただけの私に彼は苦笑した。
「お前もかよ」
「んー……、ごめんなさい」
この船の他のクルーの反応を見ればもう慣れたのだろう。それでも微笑む表情には何かに対する痛みが見えた。
「仕方ないことなんだな」
「う、ん」
「そりゃあ今は俺がロックオン・ストラトスなんだって、思わなくもないがな」
「う……」
「でも、それだけ兄さんの影響が強かったってことなんだろ」
「……うん」
ロックオン・ストラトス。
ばらばらだったマイスターを一つに纏めようとした年長者。苦労人で自ら貧乏くじを引いていく人だった。
みんなに優しくて、その優しさがどれだけ周りに変化を与えてくれたか。
大人のようで子どものようで、さいごは残酷にも自分の道を走ってしまった人。
「凄かったよ、あの人は」
彼との思い出を思い出せば涙が溢れてきた。
彼はもういないのだという事実。そしてもうロックオン・ストラトスはあの人ではなく目の前の彼だという事実。
それが残酷にも現実だった。
「ロックオン・ストラトスは、すごい人だった、ん、ですよ」
「そうか……」
「だから……、ごめんなさい。許して下さい。まだ四年前のロックオンが私とか他の人達にとってのロックオンなんだと思います」
「あぁ……。俺も、それでいい」
(その笑顔に、声に、彼を探してしまう私は最低だ)
零れ落ちた涙が無重力の中に浮かぶのをぼんやりとした視界でただ見つめていた。



 

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