返事なら要らない

 

マリーがなかなかガンアーチャーから降りてこない。怪我の可能性を考えた啓は迷わずコクピットに向かった。
「マリー!」
この数日で親しい仲となった少女に呼び掛ける。だが返答はない。外部から強制的に開けるべきか、と考えたその背後にアレルヤの声が飛んだ。彼女の名を呼ぶ声がいつもより狼狽を含んでいる。
焦燥した様子のアレルヤは啓の隣に並んだ途端に外部からの強制開閉を始めた。アリオスのパイロットならコクピットの開閉の為のコードを知っていてもおかしくない。
間もなくしてコクピットが開く。再びアレルヤが「マリー」と叫んだ。
「黙れっ!」
コクピットの彼女の声は格納庫全体に響いた。明らかにマリーのものである声はどう考えてもマリーのものではない。一時停止した思考回路がゆっくりと記憶を運んできた。思い当たるのはもう一つの彼女の中の名前。
「私はマリーではない!」
(ソーマ)
声には出さず、口の中でその名前を噛み砕いた。アレルヤは呆然としたまま言葉を失っている。
「超兵一号、ソーマ・ピーリスだ!」
これは夢だと現実逃避をするつもりもないし今更二重人格の存在を疑いはしない。ただ、「今どうして」という疑問はあった。
アレルヤの後ろからコクピットを覗き込む。ヘルメット越しの瞳はキッとこちらを睨み、確かにマリーのそれではなかった。
「……ソーマさん」
数秒の躊躇い。
けれどそれ以外に彼女にかける言葉はなく、またこの場から立ち去るという選択肢も勝手に消去していた。
頬を伝う涙をそのままに彼女はこちらを見上げる。確かにマリーとは違う目をしているが綺麗な目に違いはなかった。
「初めまして」
「なんだ、貴様」
すぐさま返ってきた声は硬質なものでいかにも軍人、といったような感じだった。鋭い視線に刺されながら啓は答える。
「ケイ、アタラクシス。ソレスタルビーイングの一人です」
眉間の皺が取れそうにないソーマを見て啓は思った。
(まだ仲良くはなれないかな)
けれどいつかはなりたい、と。



 

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