微笑んだ死神の像

 

4年ぶりにケイを見たアレルヤは、口を僅かに開けて呆然としたままだった。
彼が何を言いたいのか分からないケイは暫くその場で立ち尽くす。
吐息混じりの声が薄い唇の間から漏れたのは大分経ってからだった。
「どうして……?」
それが何に対しての疑問だったかケイには分からない。なので、「なにが?」と率直に返してみる。
「どうして、ソレスタルビーイングに?」
「ずっと前からいたじゃん」
そう返した直後、ケイは漸くアレルヤの言いたいことを理解した。
ずっと前からいたのは事実だが、4年前自分がソレスタルビーイングにいたのは事故だ。
あそこにいたのはケイの意志ではなく、成り行きでしかなかった。
だから、4年後もこうやって自分が此処にいるのが不思議なのだろう。
「そうじゃなくて……」
「選んだんだよ、ここにいようって」
自分が此処にいる理由は4年前とは違う。
行く場所がない、なんていうのは今となっては付け足した理由でしかない。
そうしたのは自分自身だ。
(だって今更戻れない)
スメラギがいなくなってからはもしものときを考えて戦術を学んできた。自分でプランニングしたこともある。これだけのことをして今更何処へ戻るというのか。
「戦うって決めた」
「ケイ、どうして!」
「だって! ……私は、それでいい。ってゆーか、それがいい、きっと」
「それでも」
「アレルヤこそさぁ!」
矢鱈と強い声音だった。追及を許さない為の強い口調。
しかしケイはアレルヤの目を真っ直ぐに見ることはなく、視線は二人の足元に落ちている。
「私は……、此処に帰って来たからって、戦わなきゃいけないことはないって……、ほんとは、そう思う。こんなこと、言っちゃいけないのかもしれないけど、でも、そう思ったんだよ」
「それこそ、今更だよ。今の僕には戦う理由があるんだから」
「そう……。じゃあ、お互いさまだろ」
「…………」
アレルヤは未だ納得のいかない顔をしていたがそれ以上の反論はない。
そのことにケイは微笑んで、彼の手の空になったマグを指さした。
「おかわり、いる?」
「その前にシャワーを浴びたいよ」
「あ、そ」
「それから、ご飯を……。良かったらケイと食べたい」
「まじでか。ふふー、それはいいや」
アレルヤの提案を冗談ととったような彼女の笑みに肩すかしを食らったような気分だったが実際そういう訳でもないだろう。これが彼女の素だ。ただアレルヤが忘れているだけで。
アレルヤが立ち上がろうとすると空のマグを奪われた。片付けてくれるのだろう。違和感を感じるということは未だ彼女を思い出せないのか、それとも彼女が変わったのか、どちらにせよアレルヤが知ることはない。
「じゃ、また後でね」と部屋を出て行く彼女を見送ってから、アレルヤは重い溜息を吐いた。
ケイとの思い出は霞んでいる訳でもない筈だ。しかしどうしてこんなにも戸惑いを感じるのか、アレルヤは漸く分かった。
(此処に、ハレルヤがいないからだ)
きっと彼は、彼女への想いを持っていってしまったのだ。だからアレルヤにはケイへの思い出が足りないのではないだろうか。
そうだ、自分は言わなければいけないことを言えなかった。こんなにも大切なことを。
無意識の内に押し込めていたのかもしれない。
微笑んだ彼女の笑顔を、その決意を、壊してしまいそうだったから。
いつかは言わなければいけないと分かっているのに。
(ケイ……ハレルヤが、もういないんだ)



 

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