緩やかな崩壊の夢

 

「ケイなら医務室に入っていったけど」なんて、そう聞いたときから嫌な予感しかしなかったけれど。
僕が入った瞬間に咄嗟に何かを隠したケイに、それが何かなど聞くまでも無かった。
棚の配置からして、最近の彼女の様子からして、考えられることは一つしかない。
「駄目だよ」
「なにが……」
「隠しても分かるさ。僕もお世話になったことがあるから」
効かなかったけどね、睡眠薬。
そう言うとケイはびくりとポケットに突っ込んだ腕を震わせた。
きっ、と泣きそうな顔で僕を睨みつける。それを見て(かわいいな)とぼんやり思った。
「……どうして駄目なんだよ。眠れない方が、まずい」
「ケイが眠れないのは睡眠薬なんかでどうこう出来るものじゃないよ」
「なんでっ」
「それに。……そっちに、ハレルヤはいない」
途端、彼女の瞳に失望の色が宿る。どうして分からないのか、僕にはそれが分からない。
「ハレルヤは僕の中にしかいないんだよ」
(だから堕ちるなら僕の方へ来ればいい)
無意識だろう。何かに縋りつきたそうな表情をしている。庇護欲を抱かせるような、加虐心を煽るような。
「眠りたいなら僕が眠らせてあげるから。ねぇ、ケイ」
毒を含んだ微笑みを浮かべて誘う。
戸惑いに揺れる瞳が弱々しくて、可愛らしい。
「あ……、あ、れるや……」
(温もりを与えてあげる。逃げないで。逃げちゃ駄目だよ。ハレルヤが愛した人)
それはなんて無様な行為。
けれど誰に笑われても構わない。
この空虚を埋められるのならば。



 

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