リコリスを食べて

 

ローザの機体、アンジュは他のガンダムとは大きく異なっている。
ファンネルによる遠距離攻撃を得意とするこの機体は、ローザが搭乗することでその性能を最大に引き出すことが出来る。端的に言ってしまえば彼女以外に動かせる機体ではなかった。
頭部と左腕の機械をアンジュのシステムに繋げることで空間の把握を通常よりかなり速く行える。全体の戦況を見渡すことが出来る、援護にはこの上なく適した機体だった。

「おわ、た」
アロウズの猛攻はいつまで続くのか、こんなのは消耗戦だ。ラグランジュ3の衛星基地を破壊されたソレスタルビーイングにとっては長期になればなるほど戦いは苦しさを増す。
しかし、そのことに加えてもう一つ、ローザには自分自身のことで気掛かりなことがあった。
機械を埋められた左腕が戦闘後も麻痺し続けている。
最初の内はすぐに治まっていた痺れだったが、今では完全に指を動かせるまで丸一日かかるようになった。
今だってそうだ。アンジュから降りロッカールームに戻ってきたが、左腕は触感を取り戻さない。痛みはない。ただ二の腕から下が自分の物ではないように感じた。
(いたい、……いたいのはいたい。だけど、これは)
ふとした瞬間に過る不快感は痛みではなくもっと違うものだ。
それは悪寒が背中を駆け抜けていく感覚。けれどローザは今まで感じたことはなかったのだ。恐怖など、不安など、戦う為に生まれた己に感じる必要ないものだったから。
「いたい」
この恐怖が何処から来るのか、ローザは知っていた。しかしそれを認めようとはしなかった。
何故なら、それはこれからの彼女が切り捨てようとしていたものだったからだ。
(決めたの。みんなの未来を守れるなら)


 

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