出会い〜店長とその師匠〜


 

ゲームは好きだ。テレビも携帯もアーケードもパソコンも。しかも自分は“人がやっているのを見ること”の方が好きなのだ。もっと幼い頃は自分もゲームを楽しんでいたことが多かったのに、それがいつのまにかこんな風になってしまっていた。
(だって、人のを見てる方が楽しいし)
ミスしても悔しくないしスムーズにいっていると楽しくなる。だから周りから変わり者と言われようとも私は人がゲームをしているのを見ているのが楽しかった。
そして、そんな私は最近あるアーケードゲームが気になっている。けれど今まで見掛けた他の人のプレイを見ていると、あまりやってみようとは思えなかった。
どの人も上手過ぎるのだ。ピアニストのように七つの鍵盤の上を指が走り、DJが使うようなスクラッチも器用に使う。そんな光景を見ているととても自分に楽しめるとは思えない。
(初めはみんな初心者とは言うけど、でも……)
気が引ける。このまま今まで通り見るだけでいいんじゃないか。そう思っていても、楽しそうに見えるからやりたくなる。
(……一度だけやってみようかなぁ)
やってみて、自分と合わなさそうなら止めれば良い。一度やってみたら吹っ切れるかもしれないし。


やってきたのは普段行っているより少し遠めなゲーセンだった。というのも、どうせなら恥はかきすてようという考えあってのことだ。どれだけ惨めなものになっても二度と行かないゲーセンならいいだろう。
あのゲームがあるかどうかは知らないが、他のゲーセンでも見るくらいだからあると思いたい。
自動ドアを抜ければ色んな音が一斉に耳に飛び込んでくる。真っ先に視界に入るのはプリクラ機だが勿論スルー。
(音ゲーのスペースは、あそこ……)
見慣れた筐体が置いてあるのを見てそちらに行こうとして、足を止めた。運悪く人がプレイしている。
いや、でも通り過ぎるだけなら……と思いそろそろと何気なくを装って近付いていった。
やはり、私にとって人のプレイを見ることは楽しい訳で。
(う、わぁあ……!!)
落ちてくるオブジェを一つも零さない。目でも追い付けないスピードのそれを、一つも零さずに。
地元のゲーセンのプレイヤーでも引け目を感じるほど上手だったのに、この人は更にその上を軽々といく。
(やばい出来ない出来ない)
出来ない。こんな人の後で出来る訳がない。
残念だとは思ったが、今はこんな凄い人のプレイを見られただけで憂鬱さも吹き飛んでしまう。曲が終了して出てくる評価は当たり前のようにAAA。
「自分、デラやるんか?」
「え……?」
リザルト画面に釘付けになっていた私はとっさに反応出来なかった。赤い髪を逆立てた男の人が振り返って私に何かを聞いていたのに。
「やから、これやるんかって聞いとんねん」
これ、と指されたのは私の目的であるゲームだ。しかし、何度考えても出来る筈がないのだ。私がやらないと言えば連コインしたそうな雰囲気でもあるし。
「い、いえ。やりません」
「そっか」
返事を聞くなりその人はやはり連コインした。モード選択も選曲も手慣れたもので、すぐにゲームが始まる。
曲とは関係ないくらいのオブジェが降ってくるのを、相変わらず綺麗に捌く。本当に見ていて気持ちが良かった。
「ねぇ、君」
じっとそれを眺めていたらいきなり声を掛けられた。男の人の声。
怖いな、なんだろう。そう思いながら声のした方を振り向くと赤いヘッドホンが目を引く男の人。店員のようで、制服に胸の名札。
(誰、この人)
名札には“店長”と“識”の文字。
私と目が合うと、その人は心配そうに言った。プレイしている男性を気遣ってだろう、小さな声で。
「君、これプレイしたかったんじゃないかな? 脅されたりした?」
もしかして……もしかしなくても心配されてしまった。恐らくこの店長は赤髪の人が私に話し掛けてから連コインするのを見ていたのだろう。だから誤解してしまったのだ。
首を横に振る。
「いえ……私、あのゲーム出来ませんから」
そう言えば店長は納得してくれたようだった。苦笑されたのは何故だか分からなかったが。
「そう。それなら良かった」
「おいコラ、何してんねん識」
「師匠が女の子を脅して連コインしてないか心配で見に来たんですよ」
「何や、人聞きの悪い」
画面に映し出されたリザルトは一瞥したのみ。赤髪の男が識と呼ぶ店長は肩を竦めてそれに応えた。
仲の良い、常連客なんだろうな。ますます自分が居辛くなってしまう。どうしよう、もう帰ろうか。他にやりたいゲームも特にないことだし見るだけでも楽しいことが再確認出来たし。
「あの……お邪魔しました」
「え? もう帰っちゃうの?」
そそくさと帰ろうとしたのに店長が残念そうな声をあげる。引き止められているのだと感じて外へ踏み出す足も止まってしまった。
「えぇっと……」
「デラ、この人がいるとやりにくいよねぇ」
返事に困っているとずばり図星をつかれた。流石にやりにくいとまで偉そうなことは言えないが(まだ初心者ですらないし)確かに当たっている。
渋々とゲームのところまで戻っていく。
「でも……私、出来ないんですよ」
「うん、分かってるよ」
おかしそうに笑われて、恥ずかしい。
「でも、やりたいんじゃないかなぁって」
又もや図星だった。もう、本当に恥ずかしい。穴があったら入りたい。むしろどこでもドアが欲しい。
「……うわぁ。私、分かりやすいですか?」
「そういうお客さん、結構いるからね」
それなら納得だ。店長として培われた勘なのだろう。しかし、こんなにも絡んでくるのはどうしてだろうか。余程暇なんだろう、そう結論付けた。
すっかり帰るタイミングを逃してしまったので、天才的なプレイを最後まで見ることにする。
「何や自分、やりたかったんやないかい」
「師匠が怖い顔で威嚇するからでしょー」
「失礼やぞ、お前。ほら、替わったる替わったる」
ゲームを終えた“師匠”が譲ってくれる。まさか店長との会話を聞かれているとは思わなかった。
やりたいのはやりたい。けれど、まさか店長と天才の前でするなんて、出来る筈がない。
「やりませんやりません。すみせん」
「気ぃ遣わんでええから」
「いや、出来ないしやったことないし……恥ずかしいし」
最後の言葉は消え入りそうなほど小さかったが相手は最初だけを聞いて「初めてか!」と更に嬉しそうに笑った。
「ほな分からんことあったら聞き」
(無理、無理無理ムリむり無理)
「……なんや」
なかなか動こうとしない私に彼が不思議そうに眉を寄せている。そういうつもりもないのだろうが、怒っているみたいで少し怖い。
「師匠、無理矢理やらせるのは止めてくださいね」
「無理矢理ちゃうわ」
「だって困ってるじゃないですか。……君も、今ここで無理にするつもりはないからね」
「……はい」
助かった、と胸を撫で下ろした。とりあえず、今日この場では出来ない。
「俺が悪モンみたいやないか」
「目付き悪いから誤解されても仕方ないでしょ」
「目付き悪いとか、おまえに言われたないわ」
「あと絡み方が不良っぽいとか」
「おまえなぁ」
二人の雰囲気が少しだけ険悪な方向にいっている気がする。もしかして私の所為じゃないのか。どうしよう。
「えぇっと……、なので、“師匠”さんプレイして下さい、どうぞ……。私に構わずに」
そう言うと二人の言い合いがぴたりと止まる。またまずいこと言ったかなぁ……。私の動きも思わず止まる。呼吸も止まった。
「“師匠”て……」
「あ、俺が言ってるの聞いたからかな」
「あ……ごめんなさい」
そういえば、“師匠”だなんて恐れ多い。私は弟子でも何でもない、ただの他人なのに。
縮こまってしまった私に二人が苦笑する。
「俺はユーズや。呼ぶんやったらそっちで呼んでや」
「ユーズさん?」
「また待っとるわ」
そう言って赤髪の男の人――ユーズさんはからっと笑った。


そのときは「また来ます」とか言った気がする。後から思えば「いや、デラ(というのがゲームの略称らしい)出来ないのに何で行くんだよ」とは思ったけれど。
それでも、また行きたいなぁと少しでも思ってしまったことは確かだった。
もしかしたら恥ずかしさも感じなくなって、プレイ出来るようになるかもしれない。そのときは初心者ですからと、どれだけ下手なプレイをしても堂々と言うようにしよう。
ユーズさんのやっていた曲がずっと耳に残っている。難易度は違っても、いつか同じ曲がプレイ出来るようになれば良いなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system