出会い〜元ハッカー〜


 

(また来てしまった……)
いつも行っているゲーセンより少し離れたところにあるゲーセンに。
何故来てしまったのか。……仕方ないじゃないかと自分に言い聞かせる。「また来ます」と言った以上行かない訳にはいかないだろう。相手はもう私の言ったことなんて覚えていないかもしれないし、何気ない会話だったからそれも当然だ。それでも私の気が済まなかったのだ。
(今日は人多いなー)
初めて来たときは土曜日の午前だったが今日は土曜日の夕方。あれからちょうど
一週間だ。
「いらっしゃい」
ドキッとした。だって、いらっしゃいだなんて普通ゲーセンでは言わない。
声の方を向くと一週間前にも会った店長がそこにいた。
「あ……お邪魔してます」
なんて返せば良いのか分からない。ゲーセンの店長となんて話せば良いんだろう。
「今日もデラ?」
「えーっと……」
その言い方だと私がまるでデラをいつもやっているみたいだ。実際は一度もしたことはない。
まぁ、やりたいとは思っているのでそのあたりのことを言っているんだろうが。
小さく、けれど分かるように頷く。すると困ったような顔をされてしまった。何かまずかっただろうか。
「今日はちょっと人が多いんだよなぁ、あそこ」
(そっか)
この人は私が人前でするのは嫌だということを分かっている。有難く、申し訳なく思った。
「人多いんだ……」
「そうなんだよねー。しかも問題児ばっかり」
呟きは完全に独り言のつもりだったが店長にはちゃんと聞こえていた。
問題児という割りにはその表情に嫌悪感はない。呆れながらも微笑ましく思っているような、そんな表情。考えられる理由はただ一つ。
「その人達、店長さんのお友達ですか?」
「友達……? 友達か……確かに、でもみんながそうっていうか……んー、お客って言えばそうなんだけど。友達っていうとなぁ……」
てっきり肯定の言葉が返ってくると思ったけれどそんなことはなかった。その“問題児”の人達を友達と呼ぶのに抵抗があるようだ。一体どんな人達なんだか。
「そういえば、ユーズさんは今日いるんですか?」
明らかに返答に困っているようだったので話を変えてみる。私も気になっていたし。
「ししょ……あの人かぁー」
師匠、と呼んでも構わないのに。そういえば何の師匠か聞いていなかった。二人はどういう関係なんだろう。
「あの人は今日は来てないよ」
「そうですか……」
残念だと思った。あのプレイを見られるかと思ったのに。
「残念そうだなぁ」
「あの人のプレイ凄かったから、見たかったです」
素直に告白すると、店長も納得してくれた。
ユーズさんのことについて、全国の中でもトップクラスだとか、今日来てないのは珍しいとか、来たら絶対デラをやるとか、色々教えてもらった。ついでに店長と彼の関係を教えて貰おうと思って口を開く。
しかしそれを店長は違う意味でとったらしい。
「あっ、引き止めてごめん。ゲームするよね」
「いえっ……んー、大丈夫です」
ゲーセンに店長と話しに来る客もそうそういないだろう。しかし、今どうしてもやりたいゲームがある訳でもない。あえて言うならデラだが、わざわざ忠告してもらえるほど人が多いところに行くのは気が引けた。そんなに他のゲームに詳しい訳でもないし。
「私、ゲーセンにそんな行かないから、どんなゲームがあるかあんまり分からないんですよ」
「そうなんだ? 気に入ってくれるのがあるといいなぁ」
「おぉーい、しきぃー!」
ゲームの喧騒に紛れて誰かが誰かを呼ぶ声がした。その声に反応するように店長が顔を動かしたから呼ばれたのは彼なんだろう。仕事絡みのことかもしれない。
私も彼の視線の先を追ってみると、こちらに軽く手をあげている男の人の姿があった。服装が違うので仕事の人ではなさそうだ。
「どうしたの、ケイナ」
「休憩やー。今までギタフリやっとったけど一人やと面白ないわ」
身長は見上げなければいけないほど高い。銀色(白色?)の頭が天を向いて伸びている。日焼けした肌と額にある道路標識マーク。色々と特徴のある人だった。
(何のマークだっけなぁ……侵入禁止? 駐車禁止? 多分そんな感じの……)
「識、遊んでぇよ」
「見て分かるだろ。仕事中だから無理」
「すいません……」
仕事中なのに、という意味を込めて謝ってみる。店長は「君に言ったんじゃないから大丈夫だよ」とフォローしてくれた。
「俺の方から話し掛けたんだし」
「何やの識、ナンパ?」
「ケイナは黙ってて。違うから」
「えぇー」
銀髪の人の視線が私の方へ向く。背が高いからか、少しだけ怖い。威圧感がある訳でも睨み付けられている訳でもない、むしろ友好的にしか見えない笑顔。
「ゲーセンにはあまり来ないほうですか?」
先程までの雰囲気をがらりと替えて微笑まれた。一瞬動きが止まってしまう。当たり前だが年上の男の人だなーと感じて緊張した。
「あ、はい。……ケイナさんは結構来られる、んですか?」
「僕もそんなには、ですよ」
「ケイナ、嘘つかない」
「でもジルチとかユーズとかと比べたらあんまりやん」
「比べる対象がおかしいから」
口調ががらりと変わる。店長と話しているときの彼が本来の姿なんだろう。しかし、すぐに変えられるあたり慣れているのかもしれない。
店長もケイナ(珍しい名前だ)さんと話し始めたので私は居なくなった方が良いかと判断する。話が段々盛り上がっている二人からこっそり距離を取りながら、さてどうしようかと考える。
目当てのゲームの所は人が多いらしい。わざわざ行きたくはないが、少しだけ気になる。チラッと覗いてくるくらいなら……。遠目に見て帰ることにしよう。
(あとクレーン見てみようかなー、やらないけど)
何か知っているアニメやキャラクターがあるかもしれないし。
何となく無意識のうちに呼吸をひそめながら音ゲーのエリアに近付く。店長の言った通り、ゲームの音に負けないほど騒がしいくらい人の話し声が聞こえる。
(うわっ)
あまり良い印象は持てなさそうだ、と即時に思った。そう考えるのは短絡的過ぎるとも同時に分かっていたけれど。それでも目の前で殴り合いの喧嘩を見て、それをしている人達をどう思うかなんて。
(実は治安良くない? このゲーセン……)
来るのが憂鬱になってしまう。まだ二回しか来ていないし何もプレイしていないけれど、折角店長とも顔見知りになれたと思ったのに。
喧嘩をしている白い帽子の金髪と緑色の頭を見ながら、どうしようかと悩む。
近寄りたくない、のは当たり前だ。しかし店長に言った方が良いということは分かる。他の人が知らせてくれるかとも考えて、期待するのを止めた。これがもしも日常茶飯事ならば、誰も止めようとはしないだろう。今も近くにいる人達は全く動じた様子もなくゲームをしたりしているし。
(言いに行こう)
あの人は私がまだ数回しか来たことがないと知っているだろうし、伝えに行ってまさか怒られはしないだろう。
そう判断して先程までの場所に戻る。
其処にはまだ店長がケイナさんと話していた。話している内容は分からないが和やかな雰囲気が漂っていて、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
(いや、でも店長ならあれは放っておいたらまずいし……)
そう、店長として。
自分を後押しするようにそう頭で繰り返して声が届く範囲になると大声を出した。そうしなければ喧騒に消されそうだった。
「店長さん!」
二人ともがこちらを振り向く。不思議そうな顔をされたが、まぁ当然か。
「デラのところで、喧嘩してる人がいて……」
「うわぁ……」
そう告げた途端、店長の顔が引きつった笑顔になった。目の色も何となく変わった気がする。
「最悪だな、ほんと。……怪我はなかった?」
「大丈夫ですけど」
目の色が……というか。そうか、ああいうのを目が据わっているというのだろう。
驚きもせず慣れたように向かう店長の背中を見て日常茶飯事なことだと分かった。どんな仲裁の仕方をするのか気にならない訳ではないが、ああいう揉め事には関わりたくない。自分なりの義務は果たしたことだし今度こそ帰ってしまおう。
出口の方を振り返ると、私の後ろで同じように店長の背中を見送っていたケイナさんと視線がぶつかった。
「大丈夫ですか?」
「え?」
「喧嘩」
「あっ、大丈夫ですよ!私は巻き込まれてないし!」
なんか変な感じがする……。違和感、気持ち悪さを感じるのは、多分、これが理由。
「あと、私年下ですし、敬語じゃなくていいですよ」
「すみません、癖なんです」
「あ、そうですか……。あと、呼び方ってケイナさんで良かったですか? これって名字ではない……ですよね?」
「……さぁ、どちらでしょう。どう呼んでもらっても構いませんよ」
その瞬間、良くない雰囲気になったのを肌で感じた。恐らく彼にとって不快なことをしてしまったのだろう。それが何かは分からないが。
「じゃあ、ケイナさんで。私はもうそろそろ帰ります。また」
「えぇ、また」
それから、私はゲーセンを後にした。
最後に彼と交わしたのはただの社交辞令だ。それでも私はまた自分の言葉に反省したくなった。そしてそれ以上に不思議に思った。
“また”があるなんて。あんな光景を見て、喧嘩なんて物騒なものはもちろん嫌な筈なのに、また来ようと思うなんて、一体どうしたのか。
(ほら、きっとユーズさんにまた会いたい……ってゆーかあの人のプレイが見たいんだ!)
そう結論づけるしかなかった。それ以外の理由なんて全く思いつかなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

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