冬の微睡みは優しくて 前編 



最近朝が冷え込む。
寒いのは嫌いだけど冬に見れる雪は好き。
白くて綺麗だしふんわりと優しい。
どんな味かと思って食べてみたら政宗様に怒られたことがある。
少ししか食べれなかった雪は何とも言えない味がしたけど嫌いじゃなかった。
でも怒られるのは嫌だから、政宗様の見ていない所でまた食べてみたいと思う。

 


の朝は遅い。
まだ幼い子どもに早起きは厳しいと思われたのか、政宗が殊更に気に入っている子どもだからか、誰も彼女を咎めはしない。
それでも早く起きようという努力はしていた。そう、努力だけは。

過去、どうしても早く起きられない自分に苛立ち、それならばと一晩中起きていた事があった。

生まれて初めての徹夜。
次の日の顔色はさぞかし見られないものだったのだろう。
畑に顔を覗かせれば小十郎が目を丸くして「どうしたんですか」と詰め寄ってきた。
そのまま自分の部屋に連行された挙げ句質問責め。
なんでこんな事をしたんですか、自分の身体がどうなるか分からなかったんですか。
そう怒る小十郎の口調がとても恐くてあの時自分は泣いてしまった。
隈が刻まれた顔をぐちゃぐちゃにして。
滲んだ視界に映ったのは複雑な表情をする小十郎と襖を開けて慌てて入ってくる政宗の姿。
(あぁ、また迷惑をかけちゃった)
その後は泣き疲れた所為と、徹夜の所為ですぐに眠りについた。
起きた後、政宗はどうしてこんな事をしたのか聞いてくれた。
ただ徹夜をしていた事を怒る訳ではなく。
素直に「早起きをして何か役に立ちたかった」と言うと政宗は一瞬目を丸くしてそれから微笑んだ。
お前は自分に出来ることをやればいい。お前は自分に出来ることを精一杯やってくれている。
そう優しく言ってくれた彼に「ごめんなさい」と「ありがとう」でいっぱいだった。

それ以降、徹夜は金輪際しないと決めた。
その代わり二度寝もしないと決めた。
それを言ったら政宗は「すげぇじゃねぇか」と笑って小十郎は「政宗様にも見習って頂きたいですな」と微笑んでいた。
二度寝はしない。
これだけは絶対に守る。
そう誓い、今もまだ破ってはいない。

 

 

しかし今日はあまりにも遅すぎた。
目が覚めたときには既に朝餉が片づけられている最中。
屋敷中に漂っている食欲を誘う薫りにはっと飛び起きればそこらかしこから感じる人の気配。
慌てて寝間着のまま厨房に向かうと器を洗っている年配の女性に驚かれた。
「おやまぁ」
そんな寒い恰好をして、風邪をひいてはいけませんよ。何か羽織っていらっしゃいな。
屋敷の女性達は親身に世話を焼いてくれる。それこそ、申し訳ないと思うくらいに。
彼女達からしてみれば、可愛らしい娘や孫のような存在なのかもしれない。
「そんなに急がなくても、ちゃんの分はちゃんと残してありますよ」
女性は内緒話をするようにこっそりと告げる。
しかしそれは子どもの求めている返答ではない。
違う。言いたいことはそうじゃない。
しかしそれを口に出すことも出来ず、はただ狼狽えた。
そんな彼女に救い船を出したのは、女性の隣にいた女性よりも少し若そうな別の女性だった。
思いついたように「あぁ」と声をあげて微笑む。
「政宗様も朝餉は召し上がっておりませんよ」
「あ」
どうして自分の言いたいことが分かったんだろう。
ぽかんと間抜けに口が空いた。
そうして年配の女性も漸くの意図が分かったのか、「あらあら」と顔を綻ばせた。
「政宗様も可愛らしいお嬢さんに心配されてさぞかし嬉しいでしょうねぇ」
「……?」
女性の言葉の意図が分からず、子どもはこくと首を傾げる。
「確かに朝からお姿を見ておりませんわ」
「さぁねぇ……。殿様は昨日だいぶ遅くまでお仕事されていたから……」
洗い物をしていたらしい若そうな女性は割烹着で手を拭きつつ近づいてきた。
その時はお礼を言わなくては、と気づいた。
「……あのっ」
「はい?」
「あ、ありがとう……ご、ざいます……」
「そんな……いいのよ。どういたしまして」
目線を合わせてニッコリと微笑まれる。
城内の女達はにとって憧れだった。
何処の者とも分からない自分を、政宗の言葉一つで受け入れてくれた人達。
いつも自分を気遣ってくれている優しい人達は、いつしか「政宗様のご命令」という事を忘却して自分の意志でに優しさを向けてくれていた。
そんな彼女達の働く姿を見るのが好きだった。
手際よく野菜を切る姿も、慣れた風に鍋をかき混ぜる姿も、大好きで。
そしていつか彼女達のように自分もこの城の為に何かしようと思うのだ。
「じゃあちゃんが政宗様を起こしてきてはどうかしら?」
ふと年配の女性が口を開く。
「えっ?」
「あぁ、それもいいかもしれませんね」
言っていることが理解できなかった訳でもないが、それはあまりにも突然だった。
言葉を繋ぐこと出来ず、またもや口を開いたままの子どもの隣で女性が声を弾ませて答えた。
「起こしていらっしゃいとまでは言わないわ。寝ていらっしゃるのならそれでいいから」
様子だけでも見てきて頂戴な、と笑う顔は自分の大好きな顔で。
「……わ、わかりました!」
頼み事を任された、その事が冷えた身体を温める。
それこそ事の内容などそっちのけにして、は意気揚々と頷いた。
慌てて出て行こうとする小さな背中に「こけちゃいけないよ」と声が飛ぶ。
その声に後ろを向いてお辞儀で返すと少しだけ速度を緩めて、それでも足早に目的を果たすため主の部屋へ向かった。 











 

 

 

 

 

 

 

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