ソレスタルビーイングの状況が過酷なものになっていくにつれて、次第に自分達にも死の影が付き纏うようになった。
眠りにつく前には寝ている間に死んでしまっている己を想像する。
(早く寝てしまえば楽に死ねるのに)だとか(起きてたら万が一に備えられるかも)だとか、そんなどうしようもないことを考えてはいつの間にか眠っているのだ。
スメラギからの呼び出しがかかる度に憂鬱だった。そんなことではいけないと思いながらも、ガンダムに向かう彼らを引き留めたかった。
そして、その恐怖は現実となってしまった。
半壊したデュナメス。やけに広いコックピット。呼び続けるハロの声。ロックオン、ロックオン、ロックオン。
ロックオン・ストラトスが、いなかった。




「それでもアンタ達は止まらないんだもんなぁ」
「うん……。ごめんね」
「謝らなくていい。……仕方ないことじゃんか」
今から十二時間以内には再び戦闘が始まる。
その戦況予報士の言葉が外れることを少しだけ願ったけれど、今更そんなことを言っていられる状況ではないことはよく分かっていた。
「だけどアレルヤ。無理はしないで。ハレルヤもね」
「うん。も、気をつけて」
「私は大丈夫。ここでみんなの帰りを待ってるさ」
気休めにしかならない無力な言葉でも言わずにはいられなかった。
今はどんな無意味な会話でも途切れて欲しくない。
。死なないで……」
「アレルヤも。死なないでね」
(生きて帰ってきて。私が迎えに行くから。でももしそれが叶わないなら……。もしも死んでしまったら、そのときは)

「絶対に迎えに来て」
「え?」
「約束、しよ。私がアレルヤを迎えに行けないときは、アレルヤが私を迎えに来てね」
、あの……」
「アレルヤとハレルヤ、二人の傍に居られたら何処でもいいから、さ」
「……それで、いいの?」
「いいよ。アレルヤと一緒なら、全然いい」
涙を浮かべながら、二人は笑った。 












はなかなか思い出してくれなかったよね」
「……なんだよもう。アレルヤ、今怒ってるの?」
「ううん、怒ってないよ」
アレルヤが声を漏らして笑う。あのときとは違う、暗い影を滲ませることのない笑顔だった。
彼の隣に座っていたもつられて笑みを浮かべた。
「アレルヤが覚えててくれて嬉しかったよ」
「だって、が言ったんだから」
二人が再会したのは街中、本当に偶然で。
当時の彼女にはアレルヤの記憶は一切なかった。
「それなのに私が忘れてたんだもんな。あのときのアレルヤ、すごい泣きそうな顔だった」
「“誰?”って言われたのは、凄くショックだったよ。でも、は思い出してくれたじゃないか」
「今思えばそれもすごいよね」
今の場所では戦争もテロも遠い世界のもののようになっている。
勿論それらは完全にはなくなっておらず、時折報道されるテロのニュースに眉を顰めたりする。
しかし、今二人が生きている場所に限って言えば、あの頃描いていた平和そのものだ。
「奇跡……ってっていうのかな。こういうのは」
「なんか恥ずかしいけど、まさしくそんな感じ」
「……僕が、求めていたものみたいだ」
「うん?」
「人殺しの僕が、こんなこと望んではいけないのかもしれないけど……」
「人殺しじゃないだろ。私らはみんな生まれ変わったんだから」
「……うん」
「アレルヤも、ハレルヤも、生まれ変わったんだよ」
ハレルヤは一人の人間としてアレルヤの隣にいた。
今は彼も自分自身の人生を楽しんでいるようだ。
(生まれ変わった私達は新しい人生を生きる)
「そういえばハレルヤは今日帰り何時くらい?」
「あと一時間くらいじゃないかな。……どうかした?」
「アイツ、私が家に来ると怒るからさ。だからその前にお暇しようと思って」
「……それは。うーん……、別に気にしなくていいと思うよ」
「そう?」
「うん。だから、まだ帰らないで……ね?」
「ん……りょーかい」
赤くなったの頬にアレルヤの唇が触れる。
肩にのせられた手を振り払うこともせず。は近くにあるアレルヤの顔を見つめ返した。
「ありがとう、アレルヤ。迎えに来てくれて」


王子様は迎えに来て、約束は果たされた。
まずはハッピーエンド。
そして新しい物語は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

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