君の筆跡が残る日誌を


 

窓の外が真っ赤に光る夕方五時。
は机の上に開かれた日直日誌と戦っていた。
問題なのは『本日の所感』と書かれた箇所。
そこだけ筆が進まず、ついには日誌と睨めっこするかたちとなってしまっていた。
無論、どれだけ睨んでも状況は変わらないのだが。
うぁー、と何度目か分からない唸り声があがる。
教室の後ろの方で雑談していた綱吉が苦笑混じりに声を掛けてきた。

「大丈夫? 
「ご、ごめん……綱吉……」
「十代目に迷惑掛けてんじゃねーぞテメェ」
もさー、もっと気楽に考えればいーんじゃね?」

山本、獄寺の視線が一斉に此方に向けられる。
待たせている身として罪悪感に負け、「ごめんなさい」と素直に謝った。
だが綱吉達は待たされている事よりもあまりにも進まない日直日誌の方が気になるらしい。
雑談を止めての座っている席までやってくる。

「俺もここ苦手。何書けばいいかわかんなくてさ」
「そうっすか?」
「隼人は書いてすらないね、ほら」
「てめぇ! 覗くんじゃねぇよ」
「獄寺くん……」
「俺なんかすっげー早く終わるぜ? それ」
「え? 凄いね山本」

山本、山本、やまもと、と。
ぱらぱらとページを捲る。
四人で日誌を覗きこんだ。

「…………」
「単純だな、野球バカ」
「えー? そうかー?」
「まぁ、山本らしいと思うよ。……部活のことと体育のことしか書いてない」
「部活も体育もない日はどうすんだよ、これ」
「え? そりゃあ部活やりたいなーとか野球やりたいなーとか」
「正真正銘の野球バカだな」
「……武って」

の呟きが沈黙をつくった。
三人の視線は彼女の方へ、彼女の視線は手元の日誌に向けられている。

「結構、字きれいなんだ」

単純な感想を述べただけの言葉だったのだが今度は不自然な沈黙が訪れる。
沈黙。
は視線を泳がせて首を傾げた。

「え、なに。ごめん、あれ、変な事言った?」

返ってくるのは綱吉の苦笑、獄寺の溜息、山本のきょとんとした顔。

結局、微妙な空気がそれからも流れ続け彼らの帰る時間は更に遅れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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